前立腺がん(前立腺がんの治療に関するトピックス)
前立腺悪性腫瘍(前立腺がん)は、欧米では男性がん死亡率の約20%を占めるもっとも多いがんのひとつです。日本では、男性悪性腫瘍死亡率の4%を占め、死亡順位では現在8位となっています。高齢化や食生活の欧米化の影響によって、日本での前立腺がんの死亡率は上昇し、1950年と比較すると1997年の年齢調整死亡率は約16倍に増加しているのが現状です。
また『がん統計白書』による報告では、2015年の部位別がん死亡数の増加比で、前立腺がんがもっとも増加率が大きいと予測されています。したがって、今後前立腺がんと診断される患者数は急増すると予想されます。当教室では、ほかの泌尿器科がんから独立して前立腺腫瘍グループ(チーム)をつくり、最新の前立腺がんの診断、治療をめざしています。
ここでは、前立腺がんに関する基礎知識を御紹介いたします。
- 前立腺がんの診断の流れ
- 前立腺がんの治療
1.前立腺がんの診断の流れ
まず患者様の排尿障害の程度(国際前立腺症状スコア)を把握したうえで、前立腺がん診断に必須となる前立腺特異抗原(PSA)の採血と直腸診、必要に応じて経直腸的前立腺エコーを施行します。
PSAは前立腺上皮より分泌される蛋白分解酵素であり、もっとも優れた腫瘍マーカーとして、前立腺がんの診断だけではなく治療観察にも広く用いられています。
排尿障害を有する患者には必要に応じて、尿流量測定(排尿の勢いを評価する検査)や残尿測定を施行します。
一般に、血清PSA値の正常値を4.0ng/ml設定し、4.0以下であり、直腸診が正常であれば、経過観察を行うか前立腺肥大症の治療を行います。直腸診が異常であれば、PSA値のいかんにかかわらず、患者の同意のもと前立腺生検を行うのが一般的です。
私たちの教室では、前立腺生検は会陰部から生検針を穿刺する方法で行っております。生検後発熱を伴う、急性前立腺炎の合併症は従来の直腸から穿刺する方法では、約2%であるのに対し、会陰から穿刺する方法は0.1%と極めて少なく、海外では会陰から穿刺する方法は直腸から穿刺するより、前立腺がんの見逃しが少ないとも報告されております。
そのほか、前立腺生検の適応には、前立腺の大きさやがん特異的といわれている血清free PSA値、また前立腺内部の血流情報(超音波パワードプラ法)を参考にして決定します。
2.前立腺がんの治療
前立腺がんの治療方針決定には臨床病期分類(がんがどの程度進行しているか)の理解が必要です。ここでは、簡便である「Jewett Staging System」を紹介します。
Jewett Staging System
| 病期A: |
臨床的に前立腺がんと診断されず、前立腺手術によって、たまたま組織学的に診断された前立腺に限局するがん(incidental carcinoma:偶発がん) |
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A1: |
限局性の高分化型腺がん |
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A2: |
中、あるいは低分化型腺がん、あるいは複数の病巣を前立腺内に認める |
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| 病期B: |
前立腺に限局しているがん |
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B0: |
触診では触れず、PSA高値にて組織学的に診断 |
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B1: |
片葉内の単発腫瘍 |
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B2: |
片葉全体あるいは両葉に存在 |
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| 病期C: |
前立腺周囲にはとどまっているが、前立腺被膜は越えているか、精嚢に浸潤するもの |
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C1: |
臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの |
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C2: |
膀胱頚部あるいは尿管の閉塞を来たしたもの |
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| 病期D: |
転移を有するもの |
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D1: |
所属リンパ節転移 |
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D2: |
所属リンパ節以外のリンパ節転移、骨その他臓器への転移 |
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D3: |
D2に対する適切な内分泌療法後の再燃 |
前立腺がんの治療法は、外科的治療、放射線療法、内分泌療法に大別され、各病期に応じて、治療方針が決定されます。おおまかな治療の選択基準を示します(図3)。化学療法はどの病期においても、第一選択では行われず、内分泌療法後の再燃がんに施行されます。近年、新規抗がん剤を用いた化学療法の有用性が報告されております。
前立腺に限局しているかの鑑別は、画像診断により総合的に判定し、リンパ節や遠隔転移検索はCTや骨シンチにて行われます。症例に応じて病期B2でも術前内分泌療法を行わず、前立腺全摘徐術を行う場合や、全身状態や合併症に応じて早期がんである、病期A、Bでも内分泌療法を選択することもあります。
外科的治療(根治的前立腺全摘徐術)の選択する根拠としては、日本人の場合、平均余命が10年以上みこまれる75歳以下であることが一般的です。われわれの教室では、術後回復の早い、小切開前立腺全摘除術を積極的に施行しております。また、病期Bの早期がんでPSA値や前立腺生検組織を検討した上で、小線源治療の実施も可能です。
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