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腎がんに対する遺伝子治療

京都新聞に2004年1月10日に掲載現在、京都府立医科大学泌尿器科学教室では他に有効な治療法のない進行性腎細胞がん患者の方に対する遺伝子治療の臨床研究を平成17年度中の実施に向けて申請中です。(京都新聞に2004年1月10日に掲載されました。
遺伝子治療は、その内容の関係から非常に厳格な審査を通過しなければならず、現在その審査が進行中です。

現在、この病気で悩んでおられる患者様には誠に申し訳ありませんが、今しばらくの猶予をいただきたいと思います。以下の内容は、現在準備中の遺伝子治療実施計画書から患者様向けの説明文の抜粋です。なお、今後内容は変更される可能性もありますので、ご了承ください。


リポソーム包埋β型インターフェロン遺伝子による
進行期腎細胞がん患者に対する遺伝子治療について

目次
はじめに
1. 腎細胞がんとは
2. 腎細胞がんの治療について
 (1) 現在行われている治療法
 (2) 今後のあなたの治療法
3. 遺伝子治療について
 (1) 遺伝子治療とは
   (1) 遺伝子とは
   (2) ベクター(運び屋)とは
   (3) 腎細胞がんに対する遺伝子治療の種類
 (2) 今回の遺伝子治療について
   (1) ヒトβ型インターフェロン遺伝子
   (2) リポソーム
   (3)今回の遺伝子治療の方法とそれを選んだ理由

はじめに
  これから私達が、直接あなたに京都府立医科大学附属病院で行われる遺伝子治療の臨床研究について説明します。はじめに、私達の臨床研究に参加される場合に、その全ての人に適用される、以下のいくつかの一般的原則を読んで了承されることが必要です。

  1. この臨床研究に参加されることは、あくまでもあなたの自由意志によるものです。したがっていつでも(たとえ臨床研究の途中であっても)この臨床研究への参加を断ることができます。
  2. この臨床研究に参加することによって、必ずしも個人的な利益が得られるとは限りません。しかし、ほかの人々やこれからの新しい医療に役立つ多くの知見が得られることが期待できます。
  3. たとえこの臨床研究を断っても、あなた自身がその後の治療で不利益をこうむることはありません。

以下の文章では、この臨床研究の特徴、期待される効果、安全性と危険性、その他の関連した事項が、次頁の目次に従って説明されています。説明の内容を十分理解した上であなたのお考えをお示し下さい。なお、あなたが抱かれている疑問については、どんな些細なことでも結構ですので、説明を行う医師にお尋ね下さい。

1. 腎細胞がんとは

腎細胞がんとは血液を濾過して尿を作る腎臓という臓器に発生するがんで、40歳代から70歳代に多く発症します。男女比はおよそ2:1です。血尿やお腹の違和感で見つかることもありますが、深い所にある臓器なのでなかなか症状が出にくく、症状が出てくる段階では他の臓器へ転移している場合も少なくありません。最近では人間ドックやがん検診などで行われている超音波検査で偶然発見される患者様が増えてきています。

2. 腎細胞がんの治療について
(1)現在行われている治療法
腎細胞がんの特徴は、他のがんで一般的に使われる抗がん剤などのお薬や放射線があまり効かないという事です。したがって手術で完全に摘出する事がたいへん重要です。しかし、発見が遅れた場合などのいわゆる進行した状態になると、多くの場合、周囲に広がっていくと同時に、リンパ節、肺、骨、肝臓などへ転移を起こしてきます。

手術で取りきれないものや、転移してしまったものに対しては、インターフェロンなどのサイトカインと呼ばれる物質を利用した薬物治療が行われています。これらのサイトカインを用いた薬物治療はは患者様の免疫力を高めることによって、がんを攻撃するので、免疫療法と呼ばれています。

10人のうち1〜2人の患者様はこの治療によって、がんが縮小するといわれていますが、残念ながら残りの8割程度の患者様には効果がありません。また、この治療によって一時的にがんが小さくなっても、やがて大きくなってくる場合がほとんどです。このように進行した腎細胞がんの患者様には確実に有効な治療法が確立されていないため、新しい治療法の開発が望まれています。

(2)今後のあなたの治療法
健康診断での超音波検査などによる早期発見と手術療法の進歩、その後に実施されるサイトカインを用いた免疫療法などにより腎細胞がんの治療成績は向上しました。

しかし、あなたの場合このような治療法が行われたにも関わらず、再発してきたこと、あるいはこれらの治療の実施が困難な状況にあることから、今後の治療法の選択は大変難しい状況にあります。

今後の治療としてあなたが選択できるのは (1) 手術(再手術の場合、腫瘍の完全な摘出は困難です。)(2) 各種抗がん剤による化学療法 (3) サイトカインなどを用いた免疫療法の継続 などがあります。しかし、当施設での経験およびこれまでの国内外からの報告から判断して、以上のいずれの治療法でも大きな効果を期待することは難しいと思われます。

3. 遺伝子治療について

(1) 遺伝子治療とは
健康なヒトの細胞の中にある遺伝子を一部取り出して加工し、これを患者様の体内に直接もしくは間接的に投与して治療効果を得ようとする治療法です。直接的投与とは治療のための遺伝子を注射や点滴あるいは噴霧を使って患者様の体内に投与する方法です。

間接的投与とは、患者様の体からリンパ球やがん細胞などを取り出し、これに治療のための遺伝子を入れて再び患者様の体内にもどす方法です。今回私たちがお話する遺伝子治療は直接的投与になります。

(1) 遺伝子とは
遺伝子とは私たちの体を作っているタンパク質の設計図です。その本体はDNA(デオキシリボ酸)という化学物質で、ヒトの細胞の場合、約3万個の設計図があるといわれています。

今回の遺伝子治療ではヒトβ型インターフェロン遺伝子が用いられます。この遺伝子が作り出すヒトβ型インターフェロン蛋白は以前より腎細胞がんの治療に用いられてきましたが、遺伝子を使うことで蛋白よりもっと効果的な治療効果が得られることが基礎的な動物実験などで確かめられています。

(2) ベクター(運び屋)とは
遺伝子を細胞に入れるために用いられる遺伝子の運び屋をベクターと呼びます。ベクターにはウィルスベクターと非ウィルスベクターの2つがあります。ウィルスベクターとは、治療のための遺伝子を組み込んだウィルスをいいます。

もちろん本来のウィルスの持っている病原性はさまざまな方法で弱められていますが、大量に使用したときには問題が起こる可能性も指摘されています。一方、非ウィルスベクターとはウィルスベクターの副作用を避けるために作られた人工ベクターです。今回の遺伝子治療ではリポソームと呼ばれる非ウィルスベクターを用います。

(3) 腎細胞がんに対する遺伝子治療の種類
1994年、米国のシモンズらは手術的に摘出した腎細胞がんの腫瘍細胞を体外で培養し、サイトカインの一種である顆粒球・マクロファージコロニー増殖因子(GM-CSF)の遺伝子をレトロウィルスベクターを用いて導入し、腎細胞がん患者へ移入する最初の腎細胞がんの遺伝子治療を行いました。

同様の遺伝子治療は1999年から日本でも実施されました。その後も腎細胞がんに対しては、米国などにおいて種々のサイトカイン遺伝子を中心に、いくつかの遺伝子治療が試みられています。

(2) 今回の遺伝子治療について
今回の遺伝子治療ではがん細胞に入れる遺伝子としてヒトβ型インターフェロン遺伝子を、運び屋であるベクターとしてリポソームを用います。

(1) ヒトβ型インターフェロン遺伝子
ヒトβ型インターフェロン遺伝子を発現させるためにプラスミド pDRSV-IFNβを用います。プラスミド pDRSV-IFNβとは輪になったDNAで、この中にはヒトβ型インターフェロン遺伝子を発現させる引き金となるプロモーターとヒトβ型インターフェロン遺伝子が組み込まれています。

プラスミド pDRSV-IFNβが腎細胞がんの細胞の中に入りますと、細胞の中で遺伝子が動き出してヒトβ型インターフェロン蛋白が作られます。今まで行われた実験では、ヒトβ型インターフェロンが腎細胞がんの細胞内で働き始めますと、遺伝子が働いた細胞の多くは死滅することがわかっています。

付図1さらに遺伝子が働くことによって作られたヒトβ型インターフェロン蛋白は細胞の外に分泌され、まわりの腫瘍細胞の増殖を抑えたり、免疫力を高めたりすることが期待されています(付図1)。

これまでの基礎的研究により、この遺伝子治療によって、単にヒトβ型インターフェロン淡白のみの投与に比べて優れた治療効果がえられる可能性が示されています。

(2) リポソーム
脂質の二重膜で作られた小さな容器(マイクロカプセル)をリポソームと呼びます。リポソームは昔から抗がん剤などの薬の運び屋として医療においても利用されてきましたが、遺伝子を運ぶ能力は低かったので遺伝子治療への応用はむずかしいと考えられていました。

付図2しかし私たちはリポソームの表面にプラスの電気を帯びさせることで遺伝子の運び屋としての能力を高めることに成功しました。
付図2

またリポソームは基本的には私たちの体を作っている細胞とほぼ同じ成分でできていることからウィルスベクターに比べ、安全性が高いと考えられています。今回の遺伝子治療では私たちが新しく開発したリポソームがベクター(遺伝子の運び屋)として使われます。

(3) 今回の遺伝子治療の方法とそれを選んだ理由
腎細胞がんの細胞が他部位にまで及んで増殖した段階(がんの転移)では先に述べてきたように現在行われている治療だけでは完全に治すことは困難です。特に既に手術や免疫療法などがおこなわれてきたにも関わらず、再発してきたケースではその傾向はいっそう強く見られます。

また、合併症や副作用などのために外科療法や免疫療法などを施行できないこともあります。以上のような場合、他に有効な治療法は存在しないのが実情です。そこで今回、ヒトβ型インターフェロン遺伝子を使う治療を考えたわけです。

ヒトβ型インターフェロン遺伝子を取り込んだ腎がん細胞は、病巣内に高濃度のヒトβ型インターフェロンを産生しつつ死滅し、さらに局所で産生されたヒトβ型インターフェロンが周囲の腎がん細胞にも作用します。また腎細胞がんに対する免疫反応が高まり、局所的、全身的効果を期待できる可能性もあることが基礎的実験で明らかにされています。

付表1以上説明させていただきました一連の臨床研究の流れを一覧表にしますと、付表1のようになります。

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